気分障害の治療に用いられるリチウムは、抑うつや不安などに有効であるだけでなく、脳にも利点をもたらすようだ。予備的な臨床試験で、低用量のリチウムの錠剤が、軽度認知障害(MCI)がある高齢者の言語記憶能力の低下を遅らせる可能性が示された。米ピッツバーグ大学精神医学分野のAriel Gildengers氏らが実施したこの試験の詳細は、「JAMA Neurology」に3月2日掲載された。Gildengers氏らは、「今回の臨床試験の結果は決定的なものではないが、より大規模な追加試験を実施する必要性を示すには十分な有望な兆候が得られた」と説明している。

論文の研究背景によると、先行研究では、アルツハイマー病で見られる脳の変性の背景にリチウム不足が関与している可能性が示唆されている。Gildengers氏は、「過去の研究で、長期間リチウムを使用している双極症(双極性障害)の高齢者では、脳の統合性を示すマーカーがより良好な傾向が認められた。そこで新たな疑問として浮かび上がったのが、そうした神経保護作用が気分障害以外にも及ぶのか、また、それを前向き臨床試験で厳密に検証できるのかということだった」と説明する。

今回の臨床試験では、60歳以上の高齢者83人を、2年間にわたって低用量リチウムを使用する群(41人)とプラセボを使用する群(42人)のいずれかにランダムに割り付け、リチウムが脳の機能や構造に与える影響を評価した。参加者は、認知機能検査と脳画像(MRI)検査を受けた。最終的に、実際に治療を受けたリチウム群41人(平均年齢72.93歳、女性56%)とプラセボ群39人(平均年齢71.22歳、女性56%)の80人が解析に含められた。

その結果、言語記憶評価テスト(CVLT-II)のスコアの毎年の低下幅は、リチウム使用群で0.73ポイントだったのに対し、プラセボ群では1.42ポイントであった(1年当たりの差0.69ポイント、95%信頼区間0.01〜1.37、P=0.05)。一方、脳画像検査では、両群ともに、記憶を司る脳領域である海馬の体積と脳皮質体積が時間の経過とともに縮小していたが、有意な群間差は認められなかった。探索的解析では、アルツハイマー病と関連する有害なタンパク質として知られるアミロイドβの脳内蓄積量が多い人では、リチウムによる保護効果がより大きい可能性が示唆された。

論文の筆頭著者であるGildengers氏は、ニュースリリースの中で、「重要なのは、リチウムが失われた記憶を回復させるわけではないという点だ。もし今回の結果が確かなものであれば、リチウムは記憶力の低下を遅らせる働きをしている可能性がある」と述べている。

この臨床試験が開始されたのは2018年である。その当時、アミロイドβを調べる血液検査は存在しなかった。そのため、参加者は臨床症状のみに基づき試験に登録されており、アミロイド陽性だったのは参加者の一部だった。Gildengers氏らは、「このことが、こうした患者群でリチウムのより強い効果を明らかにする同試験の力を弱めた可能性がある」との見方を示している。Gildengers氏は、「もし現時点でこの試験を計画するなら、最初からアミロイドβの状態に基づいて参加者を登録するだろう。実際、次の研究ではそのような方法で実施する予定だ」と話している。

また、今回の臨床試験では低用量のリチウムが高齢者でも安全に使用できることが示された。研究グループは現在、より大規模で決定的な臨床試験の実施に向けて支援を求めている。Gildengers氏は、「今回の臨床試験は、このアプローチが実行可能で安全であり、さらに追究する価値があることを示している。一方で、特にこれほど重要な問題を扱う場合には、慎重に計画された十分な検出力を有する臨床試験が不可欠である理由を改めて認識させられた」と述べている。(HealthDay News 2026年3月4日)

https://www.healthday.com/health-news/neurology/lithium-might-slow-brain-decline-among-seniors-pilot-study-shows

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