一部のADHD患者が思春期以降にトゥレット症を発症する原因は不明だった

国立精神・神経医療研究センター新規ウィンドウを開きます(NCNP)は4月17日、注意欠如・多動症(ADHD新規ウィンドウを開きます)を有する人が、後にトゥレット症を発症するメカニズムの一端として、炎症に関わる生物学的経路が関与している可能性を明らかにしたと発表した。この研究は、NCNP精神保健研究所知的・発達障害研究部の高橋長秀部長、奈良県立医科大学新規ウィンドウを開きます精神医学講座の岡田俊教授、名古屋大学医学部附属病院の加藤秀一講師らの研究グループによるもの。研究成果は、「Brain, Behavior, and Immunity – Health」オンライン版に掲載されている。

画像はリリースより

ADHDは多動性・衝動性や不注意を特徴とする代表的な神経発達症の一つであり、子どもの約5%に認められると報告されている。一方、トゥレット症は、複数の運動チックと音声チックが1年以上続くことを特徴とする神経発達症であり、頻度は0.5%と低いが、50%程度の患者でADHDを併存することが知られている。さらに、トゥレット症のある人では多くの場合、幼少期からADHD様の症状が先行してみられることが報告されている。

これまでの研究から、ADHDとトゥレット症は遺伝的な要因が大きく関与していることが明らかになっており、両者の間には遺伝的な共通性があることも示されている。しかし、ADHDを有する人の中で、なぜ一部の人が思春期以降にトゥレット症を発症するのか、そのメカニズムは十分に解明されていなかった。

そこで研究グループは今回、ADHDとトゥレット症の両方に共通する遺伝的背景に加えて、トゥレット症の発症に特異的に関与する要因が存在するのではないかという仮説のもと、遺伝子解析や血液中の炎症マーカーの分析を通じて、発症メカニズムの解明を試みた。

トゥレット症発症に関与する遺伝子変化はADHD発症リスクを増加させない

研究ではまず、メンデルランダム化解析という手法を用いて、ADHDとトゥレット症の遺伝的な因果関係を推測した。その結果、ADHDの発症に関与する遺伝子の変化を有するとトゥレット症の発症リスクが増えるが、トゥレット症の発症に関与する遺伝子の変化を有することはADHDの発症リスクを増加させない、ということを確認した。

炎症に関与する「好中球脱顆粒」がトゥレット症に特異的な経路と判明

次に、ADHDおよびトゥレット症に関する大規模な全ゲノム解析(Genome-Wide Association Study: GWAS)の公開データを用い、遺伝子レベルで両疾患に関与するパスウェイを網羅的に比較した。その結果、「RNA転写経路(RNA transcription pathway)」が両疾患に共通に関連しており、「好中球脱顆粒(neutrophil degranulation)」と呼ばれる炎症に関与する経路が、トゥレット症にのみ特異的に関与していることが明らかとなった。

ADHDにトゥレット症を合併する人は、「好中球リンパ球比率」が有意に上昇

この遺伝学的解析結果を踏まえ、名古屋大学医学部附属病院に通院しているADHDのみの診断を受けた43人とADHDに加えてトゥレット症の診断を受けた25人の計68人を対象として、感染症などの影響を排除した上で血液を収集し、解析を行った。

炎症の程度を反映するとされる血液中の好中球とリンパ球の比率(Neutrophil-Lymphocyte Ratio: NLR)を比較したところ、ADHDとトゥレット症の両方を有するグループでは、ADHDのみのグループと比べて有意に高いNLR値が示された。この結果は、トゥレット症の発症に、炎症が関与している可能性を支持するものであり、NLRが今後の新たなバイオマーカー候補となる可能性を示唆している。

NLRがトゥレット症のリスクを予測するバイオマーカーとなる可能性

今回の研究により明らかとなった好中球リンパ球比率(NLR)の上昇は、ADHDを有する人が将来的にトゥレット症を発症するリスクを示す「バイオマーカー新規ウィンドウを開きます」としての可能性を秘めている。NLRは一般的な血液検査で簡便に測定可能であることから、今後、発症リスクを早期に検出するための臨床応用が期待される。

特に、トゥレット症は抗精神病薬などの薬物療法が主に用いられているが、約3割の症例では十分な治療効果が得られず難治性であることが知られている。NLRのような炎症マーカーが今後の発症予測に活用されれば、トゥレット症に対する予防的介入が実現する可能性がある。また、現在のトゥレット症に対する治療の主流である抗精神病薬には直接的な抗炎症作用はなく、炎症をターゲットとした治療法と組み合わせることで、従来の治療では効果が得られなかった症例に対して効果的な介入となる可能性がある。

「今後は、より大規模な独立したサンプルによる追試や長期的な縦断研究を通じて、炎症とチック症状との因果関係をさらに明らかにしていくことが重要だと考えられる」と、研究グループは述べている。(QLifePro編集部新規ウィンドウを開きます

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