1970年代後半、今のようにインターネットもなく、最新情報を入手するのは困難な時代であった。当時、医学関連のセミナーは高額で、その多くは東京で開催されていたため、限られた人しか情報が得られなかった。そこで、医師や臨床検査技師向けに、無償で最新情報を提供する場を設け、医療技術の発展に貢献することを目的として企画されたのが「シスメックス学術セミナー」である。1978年に始まった本セミナーは、今年で第46回を迎える。

実は当初「シスメックス血液学セミナー」という名称であったが、血液学のみならず、医療に関する幅広い分野における情報発信の場としての発展の意味を込めて、第31回(2008年)より「シスメックス学術セミナー」に改めた。毎回、国内外でご活躍されている著名な先生方が登壇し、最新のトピックスをわかりやすくご講演いただいている。これまでに、延べ45,000人以上の医療関係者にご参加いただいた。

第45回目の節目を迎えた昨年、これまでの歴史を振り返る中で貴重な資料が見つかった。日本の血液学者として、紫綬褒章・勲二等瑞宝章を受章され、国際的にもご活躍された三輪史朗先生が、1999年に日本医事新報「緑陰随筆」へ寄稿されたエッセイである。三輪先生には、シスメックス学術セミナーの初代企画委員をお務めいただいた。「あるセミナーの二二年」、ここに書かれた三輪先生の思いを辿りながら本セミナーの歴史を振り返る。46年という長い歴史の中で、何が引き継がれ、時代と共にどのように変化してきたのかを三輪先生の言葉をお借りしてご紹介させていただく。研究者の方々と企業が協力して創り発展させた学びの場、そして情報収集の場として、本セミナーを知っていただきたい。

三輪史朗先生「あるセミナーの二二年」

“科学の振興に産学協力の必要性が叫ばれる一方で、お互いの利便が不正な金の授受になって新聞を賑わしたりする。大事なのは心の在り方だろう。そんな折、爽やかに感じていることを一つ。
ある自動機器メーカーがスポンサーとなって、毎年検査技師・医師を対象に開催するセミナーが、二二回目を迎えた。会社創立者から「機器の販売もおかげさまで順調に伸び、軌道に乗りました。そこで、その収益の一部を常日頃役立てていただいている方に還元したい。会社の宣伝のことは一切考えていない。血液学のためになるセミナーのようなものを」との提案があったのが、二十二、三年前のこと。六名の血液学者が呼ばれたが、皆その趣旨には感銘し、良いセミナーを企画しようと誓った。
具体的には、(1)毎年交替で責任者になって提案し、テーマ・演者を決める、(2)折々のトピックを取り上げてテーマとする、(3)内容は難しくてもわかりやすく話してもらう、(4)東京と神戸で同じ講演をしてもらう了解を演者から得る、(5)演者は四人、各一時間の講演後三〇分間の討議時間をとり、予め質問用紙を参加者に渡しておき、講演後回収し、司会者がこれを整理して演者に答えてもらうことで、恥ずかしがらずに質問できるようにする、(6)原稿は十分な長さのものを早くに提出してもらい、テキストにして当日安価で参加者に配布し、入場料はとらない、(7)昼食の提供はしない、(8)申し込み順に受け付け定数(各七〇〇~八〇〇名)に達したら締切る、などを決めた。
この折々のトピックを、テキストを手にしながら、わかりやすい言葉で聴き、恥ずかしがらずに質問できる形式は、企業の宣伝色、おしつけがましさが全くないことに対する好感度と相俟って大変好評を博し、毎年楽しみだという人が多く、すっかり定着した。
多くの検査技師の方が血液学の最新の知識を吸収し、血液疾患の検査、臨床に携わる医師の知識の向上にも大いに役立っている。その貢献度は非常に大きい。ビデオにも撮られ、質疑応答集も出されて、参加できなかった人のために利用されている。
良い形の産学協力の一例で、設立者の心の在り方は、二二年の歳月を経た今、確実に会社の発展につながっているのである。"

三輪史朗.日本医事新報. 1999;3928:4.

引き継がれる思いとセミナーの進化

三輪先生は、「会社の宣伝をせず、血液学のためになるセミナーを企画したい」という趣旨に賛同され、セミナーの初代企画委員として立ち上げに携わっていただいた。エッセイには、毎年、テーマを決めて講演すること、東京と神戸で同じ講演をすること、入場料は取らずに安価でテキストを販売するなど、参画に至るまでの経緯やどのような形でセミナーを実施したのかが書き記されている。セミナーを企画された先生方の当時の熱い思いは、長い年月を経ても、エッセイから読み取ることができる。その思いは、今に引き継がれ、息づいている。そして、形を変えて進化し続けている。

セミナーが始まった当初は、神戸と東京の2つの会場にて別日程で開催していたことから、同じ講演を2つの開催地でそれぞれ行っていた。その後、通信技術の進歩とともに開催形式も変化した。第20回には、衛星中継を活用して、座長と講師が登壇するメイン会場である神戸の講演を、札幌、仙台、東京、名古屋、福岡に設けられたサテライト会場に配信した。また、神戸と東京を衛星中継でつないだ2会場での同時開催は第31回からスタートした。そして、第41回からはWEB配信システムを導入し、神戸と東京の2会場での講演をリアルタイムで国内外に向けて広く配信されるようになった。これまで遠方で参加が難しかった方もWEB配信で気軽に聴講できるセミナーへと進化した。海外へのライブ配信は、時差の少ないアジア圏を中心に5つの言語での同時通訳を実施し、21の国の方にご聴講いただいている。また、時差の大きい米国やヨーロッパは、開催後にオンデマンド配信を行うようになった。場所を問わず参加できるセミナーに発展することで、聴講者数も、第1回の394名から現在は最大4,012名にまで増加した。地球のどこにいても参加できるセミナーへと変貌を遂げたのである。

講演内容の理解を深めていただくための資料も、より充実したものになった。当時は「テキストにして当日安価で参加者に配布」していた。現在では、講演をわかりやすく解説した講演概要がWEB上に公開され、事前に予習をしたうえで講演を聞くことができる。加えて、テキストは参加登録いただいた方が無料でダウンロードして閲覧できるようになった。

「気軽に恥ずかしがらずに質問ができるようにする」という三輪先生の思いは、参加者全員に配布される質問用紙に記入して会場スタッフに手渡して代読されるという形から、参加者がスマートフォンやPCから入力した質問を座長が読み上げる形になった。毎回、多くの質問が寄せられ、活発なディスカッションが行われている。

かつて、セミナーの様子はビデオ撮影され販売していたが、現在では開催後にアーカイブ動画としてWEB公開され、オンデマンドにて視聴できるようになった。リアルタイムで参加できなかった方も、後からいつでもアクセスできる仕組みを提供している。

テーマの選定など、セミナーの企画は、初回から変わらず企画委員会において起案されており、初代企画委員の三輪先生を始め、その時代の著名な先生方が企画委員を務めている。独立した企画委員会において、各回のテーマと講演される先生方が選出され、専門性が高く難しい内容をわかりやすくご講演いただいている。また、学術的な内容のみを提供している。企業色は排除され、プロモーションは一切行われていない。そして、参加費は今も無料である。

時代とともに進化しながらも、医療技術の発展に貢献することを目的に、企業色を排除して最新情報を提供するというスタイルは守り続けられ、一貫して徹底したアカデミックで価値ある学術情報を発信し、医療に携わる方々の学びへの意欲に応えたいという三輪先生の思いは、46年を経た今も変わらず受け継がれている。まさに「大事なのは心の在り方」にあった。

画像: 引き継がれる思いとセミナーの進化

第46回は循環器疾患における最新トピックス

シスメックス学術セミナーは、今年で第46回となる。「循環器病研究の未来展望」をテーマとして、2024年6月8日(土)に開催される。今回も著名な先生方をお招きして、様々な最新トピックスをご講演いただく。神戸と東京に講演会場が設けられ、講演はリアルタイムで国内外にWEB配信される。参加費は無料で、参加申込者の方はセミナーテキストを無料でダウンロードできる。講演内容をわかりやすく解説した講演概要も現在公開しているので、ぜひご利用いただきたい。

第46回(2024年)シスメックス学術セミナー
「循環器病研究の未来展望」
開催日時:2024年6月8日(土)10:00 - 16:05
開催場所:神戸会場、東京会場、WEBライブ配信

https://scientific-seminar.sysmex.co.jp/

シスメックス学術セミナー事務局
(企画/編集/ライティング:「Medical meets Technology」)

画像: 血液学の第一人者、三輪先生と共に振り返る「ある学術セミナー」の軌跡 ―エッセイに残されたその思い―

シスメックス学術セミナーサイトでは、学術セミナーに関する情報を発信しています。参加のお申込みもこちらからご登録いただけます。

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