聴力に問題のある高齢者では、問題のない高齢者と比べて認知症がある人の割合が高いことを、米ジョンズ・ホプキンス大学Cochlear Center for Hearing and Public HealthのNicholas Reed氏らが、「JAMA」1月10日号で報告した。この研究では、補聴器の使用が認知症リスクの抑制につながる可能性も示唆された。

Reed氏は、「難聴は脳の構造的な変化をもたらすとのエビデンスがある」と説明し、「脳の活力を維持するためのインプットが得られない状態になると、いくつかの脳領域が萎縮して認知症を発症する可能性がある」と指摘。また、難聴が続くと、脳の働きに負荷がかかって疲労し、思考力や記憶力の低下にもつながり得るとしている。さらに、社会との関わりの維持は認知症予防に有効であるが、難聴の人は社会的イベントから遠ざかるようになる可能性もあるとReed氏は付け加えている。

多くの人にとって今回の研究結果は重要だ。米国の国立聴覚・伝達障害研究所(NIDCD)によると、米国では65~74歳の年齢層で約3人に1人、75歳以上の年齢層では2人に1人が、生活の質(QOL)に影響を及ぼすレベルの重度の難聴を有すると推定されている。しかし、難聴を抱える人たちの大半は、補聴器を使用していない。

70歳以上の高齢者2,413人(半数以上が80歳以上)を対象としたこの研究では、中等度~重度の難聴がある人では、聴力に異常がない人たちと比べて認知症の有病率が61%高いことが示された。ただし、中等度~重度の難聴がある人のうち補聴器を使っていた人では、補聴器を使っていなかった人と比べて認知症の有病率が32%低く、認知症リスクは補聴器の使用により抑制できる可能性も示された。

なお、同様の関連性は先行研究でも示されていた。しかし、今回の研究は、超高齢者や黒人などを含む、米国国民を代表するサンプルのデータを用いたものであり、得られた結果は一般化できるものであるとReed氏は主張する。それでも、確固たる結論を導き出すにはさらなる研究が必要である。そのために現在同氏らは、難聴や、難聴と認知症の関連、補聴器の有用性などに関して解決していない疑問を明らかにするための、3年間に及ぶ臨床試験を実施している最中だという。

Reed氏は、認知症の予防や聴力の改善のために高齢者ができることはたくさんあると助言。「社会との関わりを維持して積極的に活動し続けることは極めて重要だ。聴力の面では、補聴器が保護的に働くと推測できる。補聴器がQOLを向上させることはわれわれも知っている。したがって、加齢に応じて難聴対策を講じることには価値がある」と話している。なお、幸運なことに、難聴に対処するための費用はかなり下がってきている上に、2022年8月の時点では、加齢に伴う難聴のほとんどを占める軽度~中等度の難聴の人たち向けの補聴器が市販されている。

今回の研究には関与していない専門家の一人で、米ニューヨーク大学ランゴンヘルス耳鼻咽喉科頭頸部外科のJ. Thomas Roland Jr.氏によると、難聴がさらに進行した人では、補聴器ではなく人工内耳が有効な場合があるという。

Roland氏は、騒々しい環境の中にいるときや電話での会話中に相手の言葉を聞き取りにくい場合には、検査を受けて補聴器あるいは人工内耳で改善できるかどうかを確認することを勧めている。同氏は、「よく聞こえないと、レストランや映画、劇場に出かけたり、家族の集まりに参加したりするなどの社会的な関わりから遠ざかってしまうことになる」と指摘し、「難聴は坂道を転がるようにどんどん悪化する場合もあるため、早めに対処すべきだ」と呼びかけている。(HealthDay News 2023年1月17日)

https://consumer.healthday.com/hearing-loss-2659100762.html

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