米食品医薬品局(FDA)は8月5日、切除不能または転移性のHER2(ヒト上皮成長因子受容体2)低発現乳がん患者を対象に、静注薬エンハーツ(Enhertu、一般名トラスツズマブデルクステカン)を承認した。HER2低発現乳がんを標的にした治療薬の承認としては、今回が初めてである。投与対象は、転移がんに対する化学療法を受けたことがあるか、術後化学療法中またはその完了から6カ月以内にがんが再発したHER2低発現乳がん患者である。

HER2低発現乳がんとはHER2陰性乳がんの新たな下位分類で、細胞膜上にHER2タンパクがある程度発現しているものの、HER2陽性に分類するほどの量ではない乳がんのことを指す。米国では、2022年には28万7,850人の女性が新たに乳がんの診断を受けるものと推測されている。これまでの基準に準拠すると、新規乳がん患者の80〜85%はHER2陰性乳がんとみなされるが、新たに加わったこの下位分類により、このうちの60%はHER2低発現乳がんと判定される見込みであるという。

今回の承認は、多施設共同ランダム化試験DESTINY-Breast04の結果に基づくもの。この試験では、切除不能または転移性のHER2低発現乳がん患者557人〔494人はホルモン受容体(HR)陽性、63人はHR陰性〕が、3週間ごとにエンハーツを投与する群(373人)と、医師の選択した化学療法を受ける群(184人)にランダムに割り付けられた。その結果、エンハーツ投与群では、無増悪生存期間および全生存期間のいずれにも改善が認められた。無増悪生存期間と全生存期間の中央値は、エンハーツ投与群で同順に9.9カ月と23.4カ月、医師の選択した化学療法群で5.1カ月と16.8カ月であった。有害反応としては、悪心、倦怠感、脱毛、嘔吐、便秘、食欲低下、筋骨格痛および下痢が多く確認された。

FDA腫瘍学研究拠点(OCE)のRichard Pazdur氏は、「この承認は、常に科学の進歩の最先端に立ち、ターゲットを絞ったがん治療の選択肢を多くの患者に届けようとするFDAの姿勢を明確に示すものだ。それぞれの患者のがんのサブタイプに合わせた治療法を確立することは、安全かつ革新的な治療への確実なアクセスのために優先すべきことである」と話している。

なお、エンハーツの承認は、第一三共株式会社に対して与えられた。(HealthDay News 2022年8月8日)

https://consumer.healthday.com/fda-approves-first-targeted-tx-for-her2-low-breast-cancer-2657823867.html

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