乳がん患者が眠っているときに腫瘍細胞は「覚醒」し、血流に乗って拡散する可能性のあることが、スイスの研究で明らかにされた。チューリッヒ工科大学(ETHZ、スイス)分子腫瘍学分野教授のNicola Aceto氏らが実施したこの研究結果は、「Nature」に6月22日掲載された。

これまで、転移を引き起こす「血中循環がん細胞(CTC)」は腫瘍組織から持続的に血液中に遊離しているものと考えられていた。しかし今回の研究で、それは事実ではなく、CTCは患者が眠っている間に活発化することが明らかになった。このことをAceto氏は、「患者が眠ると腫瘍が目を覚ます」と表現している。

世界では年間約230万人が乳がんを発症している。乳がんは、早期に発見できれば治療が奏効することが多いが、がん細胞が原発腫瘍から離れ、血管を通って移動して他の部位にまで広がると、治療が難しくなる。しかし、これまでの研究では、腫瘍組織からCTCがいつ血液中に遊離されているのかについては、あまり注目されていなかった。

Aceto氏らは今回、乳がん患者30人から同日の活動期(午前10時)と休息期(午前4時)に血液サンプルを採取し、それらに含まれるCTCの量を測定した。その結果、睡眠中には腫瘍から遊離するCTCが増加することが明らかになった。乳がんのマウスから採取した血液サンプルでも同様の結果が得られるかを確認したところ、夜行性のマウスではヒトとは反対に、マウスにとって休息期に当たる日中に採取した血液サンプルでCTCが増加することが確認された。

また、夜間に遊離したCTCは、日中に遊離したCTCに比べて分裂の速度が速く、新たな腫瘍を形成する可能性の高いことも示された。さらに、マウスを使った実験から、概日リズムを調整するメラトニンやテストステロンなどのホルモンがCTCのダイナミクスを制御していることも分かった。

こうした結果は、腫瘍や血液を採取する時間帯が診断結果に影響を及ぼす可能性のあることを示す。Aceto氏は、「この知見は、医療従事者が生検を実施する時間帯を体系的に記録する必要があることを示すものだ。そうすることで、データは本当の意味で比較可能なものになる」と述べている。

研究グループは、既存のがん治療から最大の効果を得るために、この知見をどう利用できるかを、今後の研究で明らかにする必要があると述べている。Aceto氏はさらに、「他のがんでも乳がんと同じような特徴が見られるのか、また既存の治療法の実施時間を変えることにより奏効率を向上できるかなどを検討したい」と話している。(HealthDay News 2022年6月23日)

https://consumer.healthday.com/b-6-23-breast-cancer-may-spread-faster-at-night-2657539244.html

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