血液検査により術後の化学療法を省略してもよい大腸がん患者を判別できる可能性のあることが、米ジョンズ・ホプキンス大学のAnne Marie Lennon氏らが実施したランダム化比較試験で示された。この臨床試験の結果は、米国臨床腫瘍学会の年次集会(ASCO 2022、6月3~7日、米シカゴ)で発表されるとともに、「The New England Journal of Medicine」にも6月4日掲載された。
ASCOによると、米国では2022年に約15万1,000人が大腸がんと新規診断され、5万2,580人が大腸がんにより死亡すると予測されている。
Lennon氏らは今回の臨床試験で、オーストラリアとニュージーランドの手術可能なステージⅡの大腸がん患者455人を登録した。同氏によると、ステージⅡの大腸がんは、がんが大腸の壁(固有筋層)の外まで浸潤しているがリンパ節転移はない段階であるという。ステージⅡの大腸がん患者では、手術によってがんを切除することで完全に治癒する患者の割合が約80%を占めているが、残る約20%では術後補助化学療法を受けないと再発すると考えられている。
対象者の3分の2(302人)は手術から4〜7週間後に血中循環腫瘍DNA(ctDNA)検査を実施する群に、残る3分の1(153人)はがんの病理検査の結果や進行度に基づき術後補助化学療法の必要性を判定する従来のケアを行う対照群にランダムに割り付けられた。ctDNAとは、血液中に遊離したDNAのうち腫瘍に由来するもののことをいう。Lennon氏らによると、血中のctDNAの存在は、その人に術後補助化学療法が必要なことを示すサインであるという。ctDNA検査群では、陽性の判定が出た場合にのみ、術後補助化学療法が施行された。
その結果、術後補助化学療法を受けた対象者の割合は、ctDNA検査群の方が対照群よりも少なかった(15%対28%、相対リスク1.82)。2年後の時点での無再発生存率は、ctDNA検査群で93.5%、対照群で92.4%、絶対差は1.1%(95%信頼区間−4.1〜6.2)であり、95%信頼区間の下限値が非劣勢マージン(−8.5)を上回り、非劣勢が示された。ctDNA検査群での3年間の推定無再発生存率は、ctDNA検査陽性者で86.4%、陰性者で92.5%だった(ハザード比1.83、95%信頼区間0.79〜4.27)。
これらの結果についてLennon氏は、「重要なポイントは、ctDNA検査の結果に基づき術後補助化学療法を省略しても、無再発生存率に差がなかったことだ」と説明。また、本研究は、患者の治療指針を決める手段としてのctDNA検査を検討した初の試験であり、「ctDNA検査を使うことによって、個別化したがん治療を行えることが初めて示された」としている。
ASCOのチーフメディカルオフィサーを務めるJulie Gralow氏はこの結果について、「ステージⅡの大腸がん患者の治療法を変える試験結果だ」との見方を示す。そして、「かなり強固な試験データであり、この試験結果が米国の標準治療に影響を与える可能性は高い」との考えを示している。
Lennon氏は、ctDNA検査によって多くの患者が悪心や嘔吐、疲労、神経障害などの化学療法による副作用を経験しなくても済むようになる可能性があると説明。一方で、医師が化学療法の施行を躊躇している高リスク患者に、確実に化学療法が施行される可能性が高まるとしている。
Lennon氏によると、次の段階では、より進行した大腸がんや他のがん種の患者において、化学療法の必要性の評価を目的としたctDNA検査の有用性について検討することになるという。(HealthDay News 2022年6月7日)
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