携帯電話や本を置いた場所を思い出せない。約束を忘れる。会話中に何を話そうとしていたか分からなくなる。このような一時的な物忘れ〔英語でsenior moment(シニアモーメント)という〕をする度に、「年だ」と言わんばかりに肩をすくめる高齢者は多い。しかし専門家によると、こうした物忘れは正常な老化現象ではなく、軽度認知障害(MCI)の兆候なのだという。
MCIは、老化に伴う認知機能の低下と、アルツハイマー病などのより深刻な認知症との間に位置付けられる状態を指す。米アルツハイマー病協会のMaria Carrillo氏は、「MCIの症状は、老化現象に似ていなくもない。だが実際は、正常な老化現象と思われたものが、記憶障害の初期段階であることがほとんどだ。そのような記憶障害が悪化して、認知症に至る」と話す。
同協会が毎年報告している「Alzheimer’s Disease Facts and Figures」の2022年版では、米国人の12〜18%がMCIを持っていると推定されている。しかし、MCIの詳細を把握している米国人は5人に1人未満(18%)であり、5人に2人以上(43%)はMCIについて「聞いたことがない」と回答している。また、MCIに関する詳しい説明を受けると、半数以上(55%)が「正常な老化のように思われる」と回答したという。こうした調査結果を受けてCarrillo氏は、「人々のMCIに対する懸念は大きいにもかかわらず、理解度はかなり低いことが判明した」とコメントしている。
MCIの症状は軽いため、日常生活に支障を来す可能性は低い。Carrillo氏によると、日常生活に影響が及び出した段階では、すでに初期の認知症に移行しているのだという。またMCIは、医師の診察を受ければ、正常な脳の老化と区別した上で発見でき、多くの場合、治療もできるという。MCIの原因には、睡眠不足、栄養不良、気分障害などがある。また、認知症やアルツハイマー病とは無関係の医学的理由、例えばビタミンB12欠乏症などにより生じる場合もある。「一時的な物忘れが頻繁に生じるのなら、その理由を医師と一緒に探すべきだ」とCarrillo氏は助言する。
その一方で、残念ながら、MCIが認知症やアルツハイマー病の前身となることもある。同協会によると、毎年、MCIを持つ人の10〜15%が認知症を発症する。こうした人にとっては、特に、MCIの早期発見が重要となる。なぜなら、2021年に米食品医薬品局(FDA)の承認を受けた新規アルツハイマー病治療薬のアデュヘルム(一般名アデュカヌマブ)で最大の利益を得るためには、認知機能低下の初期段階で治療を開始する必要があるからだ。なお、同協会によると、2022年2月現在、臨床試験中またはFDAに承認申請段階にあるMCIおよび認知症に対する治療法は104種類に上るという。
しかし、たとえ軽度であっても認知機能の低下について考えるのは、誰にとっても恐怖だ。報告の中でも、MCIの症状が現れた場合には、すぐに医師の診察を受けると回答した人は40%にとどまり、57%は、症状が続くか(33%)、悪化するか(12%)、あるいは他人から症状について心配されるか(12%)するまで様子を見ると回答し、多くの人が認知機能の低下について医師に話すのを躊躇していることがうかがわれた。
この点に関して、米クリーブランドクリニックのBabak Tousi氏は、「人間とは、未知のものに対して恐れを抱くものだ」と理解を示す。しかし同氏によると、MCIの診断が患者に力を与えることも多いのだという。なぜなら、MCIの診断を受けた人は、それに対して何かをしようと意欲的になるからだという。
今回の報告でも、そのような米国人の楽観主義の兆候は認められた。73%の人が、今後10年以内にアルツハイマー病の進行を遅らせる新しい治療法が利用可能になると予想し、また60%の人は同疾患の進行を止める治療法が、さらに53%の人は同疾患を予防できる治療法が利用可能になると考えていることが示された。この楽観主義は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックが全ての人にもたらした被害にもかかわらず、継続しているという。(HealthDay News 2022年3月15日)
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