新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、たとえ軽症でも、脳にダメージを与えるようだ。中高年のCOVID-19罹患者の多くで、嗅覚に関連する脳領域の組織の萎縮が確認されたほか、認知機能に大きな低下が認められたという研究結果を、英オックスフォード大学教授のGwenaelle Douaud氏らが、「Nature」に3月7日報告した。

「Nature」に2022年1月に発表された研究では、COVID-19罹患者の最大30%が回復後に後遺症、すなわち「Long Covid」に悩まされると推定されている。Long Covidの主な症状は、倦怠感、頭痛、息切れ、嗅覚障害、味覚障害、「ブレインフォグ」と呼ばれる記憶障害や集中力低下などである。Long Covidの原因や、軽症のCOVID-19からの回復後でもLong Covidが生じる理由については、免疫系が過剰に活性化して、体内に広範な炎症が引き起こされるためとする説もあるが、明確な答えは得られていない。

今回の研究は、英国の長期大規模バイオバンク研究であるUKバイオバンクの参加者のうち、2回の脳画像検査と認知機能検査を受けた785人(51〜81歳)を対象に、軽症で経過したCOVID-19罹患後の脳の変化を調べたもの。785人のうちの401人(感染群)は、2回の脳画像検査の間に新型コロナウイルス検査で陽性の判定を受けていた。残りの384人は、年齢や性別、人種、検査の間隔などをマッチさせた対照群で、COVID-19の罹患歴はなかった。

両群の脳画像を比べたところ、感染群では脳の灰白質の嗅覚に関わる領域(眼窩前頭皮質と海馬傍回)の厚さと組織コントラストの大幅な低下が確認された。また、感染群では、一次嗅皮質と機能的に関係する脳領域の組織がより大きなダメージを受け、脳容積の減少の程度もより大きかった。このような脳容積の変化率の両群間での差は、0.2〜2%程度と中程度であった。さらに感染群では対照群に比べて、2回の脳画像検査の間に認知機能が大幅に低下していた。この低下は、認知に関わる小脳の特定の部位の萎縮と関連していた。

Douaud氏は、「もちろん、COVID-19に罹患したことで、このような脳の変化が起きたと断言できるわけではない。しかし、今回の結果は、新型コロナウイルスに感染する前から既に生じていたかもしれない脳の変化と、感染後に生じた変化を区別した上で得られたものだ」と話す。

では、なぜCOVID-19罹患により脳に変化が生じるのか。また、そのような変化は何を意味するのか。COVID-19罹患後の症状について研究している、米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)のJoanna Hellmuth氏は、「この研究では、COVID-19罹患後に脳の変化が生じる理由までは明らかにされていない。ただ、嗅覚に関わる脳領域の組織に萎縮が認められたことから、感覚入力がなくなった可能性は考えられる」と考察する。その一方で同氏は、「この研究で確認された平均的な脳の変化は大きなものではなく、軽症のCOVID-19罹患者に脳の“変性”が生じることを意味するわけではない」と述べ、結果を慎重に解釈するべきとの見方を示している。

Douaud氏も、感覚入力の喪失により嗅覚に関わる脳領域の変化を説明できる可能性には同意を示す。しかし、今回の研究では、試験参加者が実際に嗅覚を失ったかどうかを把握していなかった。そのため、嗅覚障害と脳の変化との関連を見出すことはできなかったという。

Douaud氏によると、COVID-19に関連する脳の変化は、時間の経過とともに解決する可能性があるという。「それを明らかにするための最良の方法は、今回の試験参加者に、1〜2年後に再度、脳画像検査を行うことだ」と同氏は話している。(HealthDay News 2022年3月7日)

https://consumer.healthday.com/3-7-covid-19-can-ma…

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