慢性リンパ性白血病(CLL)に対するCAR-T療法を受け、完全寛解を達成した2症例の長期予後に関する報告が、「Nature」に2月2日掲載された。米ペンシルベニア大学のCarl June氏らによる本研究では、CAR-T療法の単回投与から10年後も患者らは寛解を維持しており、投与された改変T細胞が体内から検出できたという。
CAR-T療法は、患者自身の免疫細胞を増強し、がんを攻撃させる「がん免疫療法」の一種だ。この治療法は、患者の血液から採取したT細胞に、がんを認識するためのキメラ抗原受容体(CAR)の遺伝子を導入。がん細胞を認識・攻撃できるように改変されたT細胞(CAR-T細胞)を、静脈注射で患者の体内に戻すというもの。
2010年、再発性・難治性CLL患者を対象に、CAR-T細胞であるCTL019の第I相臨床試験が行われた。今回の研究では、この臨床試験に参加して完全寛解を達成した2症例を10年間にわたり追跡し、T細胞の変化を分析した。
その結果、いずれの患者においても、投与されたCAR-T細胞は約10年間にわたって体内に残存していた。さらにCAR-T細胞の特徴を調べたところ、投与後早期にはCD8陽性T細胞(キラーT細胞)が優勢であったが、次第にCD4陽性T細胞(ヘルパーT細胞)の割合が増え、最終的にはヘルパーT細胞が大多数を占めるようになった(各患者で99.6%、97.6%)。これらのCD4陽性CAR-T細胞は、腫瘍細胞を殺傷する特性を持ちつつ増殖を続けており、そのためにがんに対する効果を維持できていると考えられた。
June氏は、こうした分析の結果から「CAR-T細胞はCLL患者を『治癒』に導くものだと結論付けることができた」と述べている。
今回検討された患者の1人であるDoug Olson氏は、当時は実験段階にあったCTL019の単回投与で完全寛解に至った。同氏はそれまでCLLの闘病を長く続けており、標準治療には反応しなくなっていたにもかかわらず、投与から10年超が経過した今も寛解を維持している。75歳になるOlson氏は、「体調がよく、とても活動的に過ごしている。2018年まではハーフマラソンに出場していたほどだ」とAP通信に語っている。なお、もう1人の患者であるBill Ludwig氏も同様に、1回の投与でCLLの完全寛解に至ったが、COVID-19の合併症で亡くなった。
今回の結果を受け、遺伝学・細胞免疫学の専門家である米ワシントン大学のArmin Ghobadi氏は「信じがたい成果だ。『治癒』という言葉はがん領域ではめったに使われないが、この2人の患者は、ほぼ間違いなく治癒したと言えるのではないか」とコメントした。なお、Ghobadi氏は本研究には参加していない。
Olson氏とLudwig氏が治験段階で投与されたCAR-T細胞は、チサゲンレクロイセル(商品名キムリア)として2017年、小児の急性リンパ芽球性白血病を適応として米国で承認された。現在では、CAR-T療法は多くの国で特定の血液がんに対し承認されている。今回の最新の研究は、ノバルティス生物医学研究所および米国立衛生研究所(NIH)により助成された。
June氏は同大のプレスリリースで、「我々はリンパ腫を含むさまざまな血液がん、さらには固形がんをも標的に、次世代T細胞の試験を開始した。深層学習などを用いてCAR-T細胞の働きを微調整しており、他のがんも標的とする新たな段階に入れることを期待している」と述べている。(HealthDay News 2022年2月2日)
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