認知症が初期段階の高齢患者でも、スマートフォン(以下、スマホ)のアプリケーション(以下、アプリ)を、物忘れ防止のためのツールとして活用できることが、小規模研究で示された。記憶力や思考力に軽度の問題がある高齢者でもアプリの使い方を学ぶことができ、またアプリの使用により、電話をかけるなどの日常生活動作が改善したことを報告したという。米ベイラー大学心理学・神経科学分野准教授のMichael Scullin氏らによるこの研究結果は、「Journal of the American Geriatrics Society」に11月17日掲載された。
予定や用事など未来に行う事柄に対する記憶を展望記憶という。認知症患者では、主にこの展望記憶の低下により、日常生活を機能的に営むことが難しくなる。しかし、このような記憶障害に対して有効な治療薬は開発されていない。
そこでScullin氏らは、認知障害のある高齢者を対象にランダム化比較試験を実施し、展望記憶に対するスマホのアプリを用いた介入の実施の可否とその有効性を検討した。対象としたのは、軽度認知障害または軽度の認知症の診断基準を満たす55〜92歳の高齢者52人。研究グループは対象者に、スマホと、ボイスレコーダーアプリまたはリマインダーアプリの使い方を教えた上で、4週間にわたっていずれかのアプリを使用してもらった。展望記憶については、研究グループが課したタスク(例:決められた日に研究室に電話をかける、決められた日に特定の場所の写真を撮る)の遂行、標準化された質問票、および構造化面接により評価した。
その結果、対象者の評価からは、対象者がこのアプリを受け入れ、活用できていると考えていることがうかがわれた。また、標準化された質問票と構造化面接からは、介入開始から4週間後の時点で、展望記憶を要する日常生活動作が改善したと対象者が感じていることも判明した。研究グループが課したタスクについても、約半数(51.7±27.8%)が遂行できていた。
結果についてScullin氏は、「アプリの使用により、試験対象者の日常生活が改善したのを見て、われわれは嬉しかった」と喜びを表す。一般的に、高齢者はテクノロジーが苦手だと考えられているが、今回の研究で、対象者にスマホやアプリの使い方を実際に指導した同氏は、「高齢者にとって、これらの操作を学ぶことが難し過ぎるということはない」と述べている。
今回の研究には関与していない、非営利団体である米アルツハイマー病薬物発見財団の創設時事務局長であるHoward Fillit氏も、高齢者とテクノロジーの関連に対するイメージは根拠の薄い社会的通念であり、「多くの高齢者は、テクノロジーを社会との関わりを維持するための方法と見なしている」と話す。また、「その上、Apple Watchなどのデジタル技術を使って高齢者の健康をサポートしようとする動きにも関心が高まっている」と指摘する。
Fillit氏は今回の研究結果について、「実用性の面でも注目に値する。というのも、この研究は、軽度認知障害を持つ人々によく見られるが、予防可能な問題-例えば、服薬や重要な電話をかけるといったことを忘れずに行うための対策に取り組んでいるからだ」と話している。
Scullin氏らは今後の研究で、物忘れ対策のアプリが経時的に見て、軽度の認知障害を持つ人々にどの程度役立つかを、より長期的なスパンで調べていく予定だとしている。(HealthDay News 2021年11月18日)
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