選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)と呼ばれるタイプの抗うつ薬が、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)による死亡リスクを低下させる可能性を示唆するデータが報告された。米カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)のMarina Sirota氏らの研究によるもので、詳細は「JAMA Network Open」に11月15日掲載された。
SSRIは、うつ治療に最も広く使われているタイプの薬の一つ。薬剤名としては、エスシタロプラム、パロキセチン、セルトラリンなどが該当する。Sirota氏らの研究から、このようなSSRIが処方されていた患者のCOVID-19による死亡リスクは、SSRIが処方されていなかった対照群より平均8%低いことが分かった。特に、フルオキセチンまたはフルボキサミンというSSRIが処方されていた患者は死亡リスクが26~28%低かった。
この研究では、2020年1~9月に米国内87の医療機関で治療を受けたCOVID-19患者、8万3,584人の医療データが解析に用いられた。年齢や性別、人種/民族などの人口統計学的因子、併存疾患、処方薬などを傾向スコアによりマッチさせた上で、SSRI処方あり群(3,401人)と処方なし群(6,802人)を1対2の割合で抽出し、予後を比較検討した。
その結果、SSRI処方あり群では497人(14.6%)がCOVID-19により死亡。一方、SSRI処方なし群では1,130人(16.6%)が死亡。相対リスク(RR)は0.92(95%信頼区間0.85~0.99)であり、前述のようにSSRI処方あり群で8%の有意なリスク低下が認められた。
この研究とは別にも、フルボキサミンがCOVID-19重症化を抑制するとする論文が最近、「The Lancet Global Health」に掲載された。これらの報告を基に、「フルボキサミンはCOVID-19パンデミックのゲームチェンジャーだ」とする専門家も現れている。
しかしSirota氏は、そのような考え方は時期尚早とする。「我々の研究結果はSSRIとCOVID-19の予後との関連を示しているだけであり、『SSRIがCOVID-19に有効』と結論付けることはできない。また、メカニズムの検討も行っていない。さらに、同じSSRIというカテゴリーの薬剤でも、一部の薬剤がより保護的に働く可能性のある理由を明らかにする必要もある」とし、「これらの薬を今後COVID-19患者に用いるのであれば、その前に臨床試験を経なければならない」と、早急な解釈に注意を促している。
一方、コランタン・セルトン病院(フランス)のNicolas Hoertel氏は、この論文に寄せた付随論評の中で、SSRIによるCOVID-19重症化抑制のメカニズムに考察を加えている。同氏は、「まず言えることは、抗うつ薬の中には重症COVID-19患者で見られるような炎症反応を抑制する作用を持つものが存在する」と語る。その上で、ドイツから報告されたある基礎研究の結果を紹介。その研究では、新型コロナウイルスが細胞に侵入しようとする仕組みを、SSRIが阻害するように働くことが示されたという。
「これらのSSRIの作用メカニズムにより、投与量に応じて抗炎症効果と抗ウイルス効果を発揮する可能性がある」とHoertel氏は解説。加えて「SSRIのこのような作用は、ワクチン接種率が低く治療へのアクセスが制限されている貧しい地域の人たちには、特に朗報となる可能性がある」としている。
その理由として同氏は、フルボキサミンのようなSSRIは既に安全性が確認されていて、忍容性が高い上に安価であるという特徴を挙げ、「医療機関での治療が高額であり、時にはエビデンスが少なくリスクを伴う治療も行われることのある状況下では、SSRIが有効なリスク回避手段として役立つかもしれない」と解説。それにとどまらず同氏は、「SSRIは新型コロナウイルスに対抗するためのワクチンに追加する、さらに強力な”武器”として用いられる可能性がある」とも述べている。
ただし、Hoertel氏もSirota氏と同様に、「SSRIのCOVID-19に対する有用性を確認するためには、今後より多くの研究が必要だ」と慎重な見方を示している。(HealthDay News 2021年11月15日)
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