たとえ初期段階のアルツハイマー病患者であっても、適切な睡眠時間を確保することで、加齢に伴う認知機能低下のリスクを下げられる可能性のあることが新たな研究で明らかにされた。睡眠時間は少な過ぎても多過ぎても認知機能低下と関連したという。米ワシントン大学医学部のDavid Holtzman氏らによるこの研究結果は、「Brain」に10月20日掲載された。
アルツハイマー病は認知機能低下の主因であり、認知症症例の70%を占める。睡眠不足はアルツハイマー病でよく現れる症状であり、病態の進行を促す要因でもある。過去の研究では、睡眠時間は少な過ぎても多過ぎても、認知機能テストの低スコアと関連することが示されている。しかしこれらの研究では通常、アルツハイマー病自体の評価は行われていない。
そこでHoltzman氏らは、同大学のKnight Alzheimer Disease Research Centerを通してアルツハイマー病の試験に参加している人の中から100人(平均年齢75歳)を対象に、中央値で4.5年間追跡し、睡眠と認知機能の変化の関連を調べた。対象者は毎年1回、臨床評価と認知機能評価を受けたほか、血液検査でアルツハイマー病の発症リスク増加との関連が示されているアポリポ蛋白E(APOE)のε4対立遺伝子(以下、APOE-ε4)の有無が確認された。さらに同氏らは、対象者から脳脊髄液を採取し、アルツハイマー病のバイオマーカーである総タウとアミロイドβ42のレベルを測定し、また、夜間睡眠中の対象者の脳波を4〜6日にわたって計測した。
対象者の大半(88人)には認知障害がなかったが、11人には非常に軽度の認知障害、1人には軽度認知障害が認められ。睡眠時間と認知機能低下との間にはU字型の関係が認められ、脳波計測による睡眠時間が4.5時間未満と6.5時間超の場合では、認知機能テストのスコアが低下していた。一方、睡眠時間が4.5時間~6.5時間だった人では、スコアの低下は認められなかった。このU字型の関係は、年齢、性別、総タウとアミロイドβ42のレベル、APOE-ε4の有無など、睡眠と認知機能の両方に影響を与え得る因子を調整した後でも、認められた。
なお、Holtzman氏らによると、脳波計測により算出された睡眠時間は、自己申告による睡眠時間より1時間程度短くなる傾向がある。よって、自己申告による睡眠時間では、5.5時間未満と7.5時間超でリスクが増加することになるのだという。
こうした結果についてHoltzman氏は、「睡眠時間が短い人だけでなく長い人でも認知機能が低下しているというのは、非常に興味深い結果だ。このことは、認知機能低下の鍵を握っているのが、総睡眠時間ではなく睡眠の質である可能性を示唆している」と述べている。
論文の筆頭著者である、同大学医学部のBrendan Lucey氏は、「睡眠とアルツハイマー病進行の各段階がどのように関連するのかを突き止めるのは困難だが、介入方法をデザインするに当たっては必要な情報だ。われわれの研究では、総睡眠時間には”スイートスポット”とでも呼ぶべき範囲があり、その範囲での睡眠を確保している人は、時間が経過しても認知機能が安定していることが示された。それとは逆に、この範囲を逸脱している人では、認知機能の低下が認められた。この原因は、睡眠時間の不足か睡眠の質が影響していると考えられる」と話す。
Lucey氏はさらに、「今後、解決すべき疑問は、介入により睡眠を改善できるか否か、ということだ。例えば、睡眠不足の人の睡眠時間を1時間増やすことで、認知機能にプラスの効果がもたらされるのだろうか」とし、この答えを得るためには、さらなる研究の実施が必要だとの見解を示している。(HealthDay News 2021年10月22日)
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